2005年11月26日

Tonus Peregrinus のレオナン/ペロタン

前にちょっと言っていた、NAXOS のノートルダム楽派のディスクについて書きたいと思います。

NAXOS: Sacred Music from Notre-Dame Cathedral, Tonus Peregrinus

このディスク、聴けば聴くほど良いディスクに思えてくるディスクですね。
Ensemble Gilles Binchois の新しい録音

Perotin & l'Ecole de Notre Dame

を除けば、現在のところ、レオナン、ペロタンの最高のディスクと言っても良いかもしれません。

まず、女声の使い方がうまいです。上の Gilles Binchois のディスクも女声の使い方が衝撃的に美しかったのですが、こちらもひけを取りません。ペロタンの作とされる単声のコンドゥクトゥス Beata Viscera をどちらのディスクも女声のソロで歌っていて、どちらの演奏もすごく美しく、この点では互角かもしれません。

しかし Tonus Peregrinus のすごいのは、レオナンの Viderunt omnes などにおける女声を導入する編曲力でしょう。これはかなり面白いです。

またペロタンの二曲の4声曲のうち Sederunt principes を女声のみにしたのは大正解と言ってよいでしょう。男声による Viderunt omnes を軽々と凌駕しています。

次に、選曲がとても良くできています。それは、次のようです。

  • Perotin: Beata viscera (conductus)
  • Plain chant: Viderunt omnes
  • Leonin(?): Viderunt omnes (organum)
  • Dominus に基づく6曲のクラウズラとモテト
  • Perotin: Viderunt omnes (organum)
  • Scolica enchiriadis: Non nobis Domine (organum)
  • Perotin: Sederunt principes (organum)
  • anon.: Vetus abit littera (motetus)


まず頭に Beata viscera を女声ソロで美しく聴かせ導入とした後、グレゴリオ聖歌(クリスマスのミサ)の Viderunt omnes をみんなで歌います。

そして、その聖歌をレオナン、ペロタンがどう料理したかを聴かせていきます。

まずはレオナンのものとされる2声のオルガヌムです。最近では、2声のオルガヌムのディスカントゥス部分以外のところは、明確にモーダル記譜法で書かれているわけでない、というのが多くの音楽学者に支持される見解であるようで、かつてマンロウが魅力的な演奏を聴かせた、William Waite の The Rhythm of Twelfth Century Polyphony のような明確な三拍子のリズムは拒絶される傾向が強いようです。

ところが、Tonus Peregrinus のこの演奏では、Waite のものとはだいぶ違うようですが、ディスカントゥス部分以外もだいぶモーダル風のリズムで歌っています。ただ、テンポがマンロウとかヒリアードみたいに急速でないので、それほど際立って聴こえるということはありません。

この選択は私には、ある意味正しく思えるのですが、というのは、上記のように「ディスカントゥス部分以外のところは、明確にモーダル記譜法で書かれているわけでない」というのが定説になりつつあるようなので、演奏する人もそのようにするわけですが、Waite の仮説が強力であったためか、それに替わるような音楽的な解決を提示できている演奏が極めて少ないように思います。(ほとんど唯一の例外は上記の Gilles Binchois のディスクの中の Leonin-Perotin: Et valde のように思います。)
そこで、ディスカントゥス部分以外にもモーダル風の理解を試みることは場合によってはアリではないかと思います。実際、曲によっては Waite のやり方で良いのではないかと思えてくる曲もあります。

さて、それで、レオナンが終わると、今度はその Viderunt omnes の聖歌の中の Dominus の部分の上に作られたクラウズラとモテトゥスを六曲、ポンポンと演奏していきます。それぞれは1分に満たないものばかりです。間奏として興味深く面白いです。

さてそれが終わると、いよいよペロタンの大オルガヌム、4声の Viderunt omnes の登場です。私としては必ずしも絶賛できる演奏ではないのですが、いくつかの点でこの演奏に賛同します。一つは、教会の深い残響の中、一つ一つの協和を確かめながら進めるようなゆっくりとしたテンポであることです。この点、マンロウやヒリアードは速すぎです。

この演奏は16分かかっており、Gilles Binchois の別のディスク(1993年のもの)の17分17秒に次いでゆっくりですが、Gilles Binchois の演奏では、後半、ブレイクというか終止を置きすぎて無闇に音楽が途切れてしまうのが残念な点でした。一方、こちらはほとんど終結させることなくどんどん進んで行きます。これがこの演奏を評価したいもう一つの点です。

さて、その次の曲は驚愕の一曲です。
なんと Scolica enchiriadis の曲です。Scolica enchiriadis というのは9世紀に書かれた音楽理論書のことで、同時期に書かれたとされる Musica enchiriadis と並び、その中に、オルガヌムの実例が具体的に書き記された最初期のものです。そして、ここで歌われているのはそういった最初期のオルガヌムの実例の一つであり、つまり、われわれの知り得る最古の多声音楽がこの曲ということになります。

これらの理論書に書かれているものは、多声音楽といっても、終止部分を除いて4度5度の平行で進むオルガヌムなので、一見、trivial であって、音楽としてそれほど興味を引くものではないようにも思えるのですが、その4度5度の平行オルガヌムをここでは7分以上もやっていて、しかも面白いのです。これには本当に驚かされました。この団体の編曲力が光っていますね。

この演奏を聴くと、中世の人々が初めて教会でポリフォニーを耳にしたときに受けたであろう感銘を追体験できるような気がします。(別のところで、4度5度の平行オルガヌムを「ポリフォニーと呼ぶには忍びない」などと言ってしまったのがちょっと恥ずかしい…。)

そして、これが終わると再び12世紀にもどり、ペロタンのもう一つの4声の大オルガヌム Sederunt principes です。これは女声だけで歌っていて、男声のときのように重くならずに、この曲の色彩の豊かさが存分に楽しめる名演だと思います。

そして最後は、最初の Beata viscera の旋律を定旋律に取ったコンドゥクトゥス Vetus abit littera を postlude として演奏し、全体をしめくくっています。

全体として、これほどまで面白く曲が組まれたCDはなかなか無いでしょう。


長々と書いてしまいましたが、NAXOS で1000円で買えるということもあり、これは超オススメのディスクですね。
posted by まうかめ堂 at 20:49| Comment(4) | TrackBack(0) | 中世音楽(CD)

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posted by まうかめ堂 at 20:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 「まうかめ堂」の日記