今年の「重点領域」と年の初めに定めたマショーのバラード「チクルス」も、それなりに着々と量産できていて、2声曲は全曲 MIDI 化を終え、3声曲に突入しはじめました。
そこで、2声と3声では全く世界が違うのだという、非常に興味深い事実に気付きました。
それは「2声のようなフレキシビリティーが3声には無い」、「3声曲の構造は2声曲よりはるかに rigid である」、という口に出してしまうと当たり前に聞こえることなのですが、作ってみてそれを実際に体感できたというのはちょっと良い経験です。
これに関して二つのことを思いました。
第一には、中世音楽は単旋律のものと多声のものに大きく分けられますが、多声音楽もそれに匹敵するような差異として2声と3声以上に分けられるということです。
これは、単旋から2声への飛躍と2声から3声への飛躍がそれぞれかなりの期間を要したのに、3声から4声以上への敷衍は比較的短期間で行われたということと本質的に関わることと思われます。
またこれはノートルダム楽派におけるモーダル記譜法の導入とも微妙に関わってくることです。すなわちレオニヌスの時代までのような多分に即興的要素を含む2声の音楽においては必ずしもリズムをrigid に書き記さなくとも容易に「調和=協和」のための同期が得られたわけですが、3声以上で同期するとなると「時間 tempus」を何らかの意味で「計量する mensurare」必要が生じるわけです。
ただ、この辺の発展のモチベーションの核心がどこにあったのかは微妙かつ難しい問題ではないかと思います。つまり、3声以上に拡張するためにリズムの構造化が起こったのか、最初に2声において既にリズムの構造化が起こってそれが自然に3声に拡張されたのか、はたまたそれらが同時に起こったのか…。
面白いのは、完全に計量された音楽であるマショーの作品においても2声曲と3声曲の間にこれほど実感できるほどに差があったということです。
二番目には、トレチェントの曲で2声曲のウェイトが大きいのは、そのフレキシビリティーと直接関わっているようだということ。
確かにトレチェントの decorative な旋律重視の表現においては2声曲の方が圧倒的に作りやすそうです。
(カッチャは例外ですね。カッチャも旋律重視の音楽であることには変わりないと思いますが、これは系統が別ですね。)
マショーに話を戻しますが、3声の曲でもう一つ興味深く思ったのはコントラテノールの豊かさです。マショーの3声曲ではコントラテノールがいわば「狂言回し」になってるんじゃないかと…。
例えば、 Gais et joli ではAパート(二回くりかえす前半部分)で、三分の一ぐらいのところでコントラテノールに上声部のAパートのエンディング(二回目の方)の予示が既に出てくるんですね。しかも上声部のフレーズの切れ目にかぶせるような形で…。
本当に面白いですね、コントラテノール、和声やリズムの補完的声部にとどまるわけでなく、近代以降の音楽で言うところのオブリガートとも違う、マショーを始めとするこの時代のポリフォニーは本当に興味深いです。
また、これは、最近BBSの方でちらっと言った、コントラテノールにチェロ、Tテノールにハープシコード、というMUSICA ANTIQUAの Myoushin さんがよく使われている楽器法がしっくりくるということと関わっています。
チェロの音って大抵の音源でかなり分厚いウェイトのある音なのですが、これを敢えてコントラテノールに置き、上声部とがっつり対決させて、その分テノールを撥弦楽器にしてウェイトを軽くしておくと面白いぐらい良いバランスになるんですね。
マショーも、マショーの MIDI 化も興味が尽きないです。
2006年06月04日
雑々
今年は、先月までバタバタに忙しく、なかなか日記にまで手がまわらずに、ずいぶんと久しぶりですが、ようやく少し余裕がでてきたので、また、いろいろ書いておきたいことも出てきたので、手始めとして、トピックだけここに並べておきたいと思います。
中世音楽について
1.マショーのバラードを20曲弱、作ってみての感想。
2.「カペラのマショー」revisited (CDの感想)
3. ヒリアード・アンサンブルの出てるペロタンDVDの感想。
それ以外のこと
4.無声映画末期の subtilitas について。(まうかめ堂、1920年代後半の、欧州の監督による無声映画に驚倒するの巻。)
5.吸血鬼映画論のようなもの。
とまあこんな感じですが、少なくともここにメモっておかないと書かずじまいになる可能性があるので…。
(メモっておいてもそうなるかも…。)
中世音楽について
1.マショーのバラードを20曲弱、作ってみての感想。
2.「カペラのマショー」revisited (CDの感想)
3. ヒリアード・アンサンブルの出てるペロタンDVDの感想。
それ以外のこと
4.無声映画末期の subtilitas について。(まうかめ堂、1920年代後半の、欧州の監督による無声映画に驚倒するの巻。)
5.吸血鬼映画論のようなもの。
とまあこんな感じですが、少なくともここにメモっておかないと書かずじまいになる可能性があるので…。
(メモっておいてもそうなるかも…。)