みなさま、ご無沙汰しております。
夏の暑さはどうやら過ぎ去ったようですが、天候がおかしなことになっている今日このごろ、いかがお過ごしでしょうか。
もうかれこれ数ヶ月前のことですが、ヒリヤード・アンサンブルが今年結成40週年を迎え、しかも今年いっぱいで解散するというショッキングなニュースが飛び込んできました。
「英国式アカペラ古楽」の華々しい歴史もいよいよ幕引きとなってしまうのかぁ、としみじみしていたところ、彼らの最後の世界巡業で東京で一度だけ公演するというではありませんか!
これは絶対に外せないということで、スタンコ奥さんと行って参りました。
ヒリヤード・アンサンブル ア・カペラ・コンサート@武蔵野文化
よくよく思い返してみるとヒリヤードのコンサートに行くのはこれが3回目です。
いずれも2000年代だった思いますが、過去に二回行っています。
確か一回目はクリストフ・ポッペン(Vn)と一緒の Morimur 巡業のとき、二回目は今回と同じ武蔵野文化で、そのときはペロタンと細川俊夫をやっていました。
それで今回、まず前半はエストニアの作曲家ヴェリヨ・トルミスという人の1996年の曲に始まり、コーニッシュやアルカデルトなどのルネサンス期の歌曲を歌った後、細川俊夫の日本民謡編曲(南部牛追歌、さくら、五木の子守歌)でおわるという構成でした。
で、演奏を聞いてみると、もうだいぶメンバー全員の年齢が上がったせいか、息が続かない、音程がキープできないなどのヒリヤードらしからぬ光景が散見されたというのはありますが、ヒリヤード独特の響きの美しさは全く失われておらず、例えば細川俊夫の民謡編曲は圧巻の美しさでした。
そして後半は、ペロタンの Viderunt omnes に始まり、コーニッシュ、ペルトと続き、なんとアルメニア聖歌の編曲(コミタス・ヴァルダペット, 1869-1935, という人の編曲)、そしてペルトで終わるというものでした。
で、この後半、冒頭のペロタンで一気にエンジンがかかった感じで、その後はフルスロットルな演奏が続き、「なんだ、まだまだ全然いけんじゃん…」、「これで解散はやはりもったいない…」という展開。
例えばアルヴォ・ペルトの声楽曲はヒリヤード以外の演奏というのが想像しにくい曲が多く、実際、よほどうまい団体でないかぎりダメで、ヒリヤード以外の団体の大抵のペルトの曲の演奏は悲惨なものになるというのがあります。
ヒリヤードが解散してしまったら、ペルトの曲は誰が演奏できるというのだろう、とか思いながらききました。
アルメニア聖歌は、絶妙に exotic で、仮にこういうのが西方教会の聖歌に含まれていたら西洋音楽のありようが随分変わっていたのかもしれない、なんてことを思いました。例えば教会旋法の理論はさらにややこしいことになっていたでしょうね。
そしてアンコールの一曲目は細川俊夫の「さくら」をもう一度。
これも前半での演奏より格段に上がっていました。
これで終わりかなと思っていたら、アンコールをもう一曲やってくれました。
曲はなんと Thomas gemma という14世紀イギリスのモテトです。まうかめ堂的にはこれは感動ものです。
なぜなら、この曲の入っている Medieval English Music というディスクは、私が持っているヒリヤードのディスクの中で最も好きなものだったからです。
(1983年録音です。ECM以前のものです。多分ヒリヤードが世界的にメジャーになったのはECMレーベルでディスクを出すようになってからだろうと思いますが、古楽のディスクではECMヒリヤードにあまり良い印象は持っていません。
Perotin は良いです。というかPerotinの演奏の一つのお手本として勧められるものが他にほとんどないからですが、それでもときどきECM臭さが顔を出すのが珠に傷です。
最悪のものは Jan Garbarek と共演した Officium です。しかもこれが売れてしまったのだから「なんだかななあ」という感じでした。結局誰も古楽なんかに興味はなくて、ambient 化するみたいなことをしないとだれも古楽なんて聴かないのだということを物語っているような哀しいディスクでした。
そんなECMヒリヤード古楽で例外的に一つだけ素晴らしいディスクがあります。 Codex Specialnik, 1500年頃のプラハの宗教音楽のディスクです。これだけはECMは偉いと思いました。
古楽以外ではECMヒリヤードがアルヴォ・ペルトを遍く天下に知らしめたことは 大変良いです。)
脱線しました。
アンコールのThomas gemma の話をしていました。
最近はなんでもYouyubeに上がっていますがこの曲もありました。
Thomas gemma Cantuarie
最後の曲がこの曲で余計に感慨深かったヒリヤードさよならコンサートでした。
なおこの演奏会は確か11月3日の早朝?にNHK BS3 で放送されるようです。みなさん見ましょう。