2015年01月02日

最古の「実用」オルガヌム

年末にスタンコ奥さんが興味深い記事を見つけてくれました。

Earliest known piece of polyphonic music discovered

実用的な用途で用いられた我々の知る限り最古のポリフォニー音楽が最近 British library で発見されたとのことです。

詳しくは上の記事を読んでいただくのが良いですが、少しだけこの発見の背景説明のようなことをしたいと思います。(言うまでもないことですが私の知識は限定的です。)

記事を読むと The earliest known practical example of polyphonic music ... has been found ... という一文が目に飛び込んできて、パッと見「最古のポリフォニーの発見か」というようにも見えるのですが、実はそうではなくて、ここでは practical という但し書きが必須です。つまり「実用的な用途で用いられたものとしては最古のポリフォニー」が新たに見つかったということです。
西暦900年ごろに書かれたものとのことです。

「じゃあ、実用でない(本当の)最古の例っていったい何なの?」という疑問が生じますが、それは音楽理論書の中に譜例として現れるポリフォニー曲として知られています。9世紀後半に書かれたと推定される「音楽提要 Musica Enchiriadis」や「学問提要 Scolica Enchiriadis」に現れる非常に素朴な平行オルガヌムの譜例が、「我々の知る本当に最古のポリフォニー曲」ということになるようです。

では「この発見以前に知られていた最古の実用ポリフォニー音楽って何っだったの?」かというと、それは11世紀半ば頃に成立したとされる「ウィンチェスターのトロープス集」に含まれるオルガヌム曲だそうです。

この「ウィンチェスターのトロープス集」はイングランド独特のネウマで書かれていて解読がほとんど出来てない状態だそうですが、内容的にはその少し後の「アキテーヌのポリフォニー」(1100年頃〜13世紀初頭)「カリクスティヌス写本」(1173年には成立)などに含まれるレパートリーと同程度に高度な自由オルガヌムの実例を含んでいるようです。

そこで、9世紀の音楽理論書に現れる素朴なオルガヌムの譜例と、11世紀以降突如大量に書き記される高度な超絶技巧オルガヌムの間の非常に大きなギャップがポリフォニー音楽の歴史における missing liik としてあったわけですが、今回の発見はそのギャップを埋める一つのピースということになりそうです。

上にも書きましたが、記事によると西暦900年ごろに書かれたものとのことで、9世紀の音楽理論書の成立の少し後ということになります。上の記事には解読した現代譜が掲載され、その演奏の YouTube が貼られています。
この演奏はぜひ聴いていただきたいのですが、4度の平行オルガヌムをベースに、それを音楽的にアレンジしたものになっています。
上述の「音楽提要」には Rex celi Domine maris undi soni という大抵の音楽史の本に載っているオルガヌムがありますが、発想としてはこれに近く、理論的に Rex celi として示されたオルガヌムのやり方は、こういう形で実践されたと考えると「なるほど」となる感じの音楽です。

確かにこれが本当なら大発見ですね。

発見者は Giovanni Varelli という人だそうですが、この曲の定旋律パート(vox principalis)の解読に関する記事が次で読めます。

Pitch, Rhythm and Text-Setting in Palaeofrankish Notation

オルガヌム全体に関する論文はまだ出版されていない(forth coming )ようですが、どういう経緯でこのような解読になったのか詳しく知りたいところです。
posted by まうかめ堂 at 00:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 中世音楽
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