2007年05月19日

Ce moys de may の詞にもう一言だけ

デュファイの Ce moys de may の詞について書き連ねておりますが、最後にもう一言だけ。今回はこれまで私が目にしてきた詞の transcription とは、意見を異にする箇所の話です。

詞の全文とまうかめ堂による適当な訳については数日前の記事を参照してください。
問題にしたい箇所は、最初から四行目

Pour despiter ces felons en vieux.

の、en vieux です。
これは、私の所有する全ての詞の transcription では envieux と一語になっています。しかし写本のファクシミリを見ると en vieux と、はっきり二語に見えるように書かれています。

少し詳しく言うなら、この箇所は楽譜の中に書かれている詞なので、場合によっては語の区切が必ずしも明確ではありません。というのは、現代のようにハイフンによって語のつながりと区切をはっきりさせるという習慣なんて無かったからです。

にもかかわらず、これが二語に見えるのは、vieux の最初の v が大きめに、語頭であることを強調するかのように書かれているからです。しかも三パート全部同じようにです。

では、これを envieux と一語に読む積極的な理由はあるだろうか、と考えてみます。私は最初、詞の文脈から envieux 一語説が正しいだろうと思っていました。しかし今回改めて検討してみて、二語 en vieux が意味的にピッタリくるという結論になりました。それについて説明します。

まず、そこにいたるまでの詞を最初から見てみましょう。

Ce moys de may soyons lies et joyeux
Et de no cuer ostons merancolie.
Chantons, dansons, et menons chiere lie,
Pour despiter ces felons en vieux.

この五月、陽気に楽しくやろう
そして心の中から憂さを追い出そう
歌って踊って明るい顔をしよう
en vieux な反逆者(裏切り者)に負けないために


さて、最初の三行は意味的に明解です。疑問の入る余地はあまりないでしょう。

ところが四行目になると、いきなり ces felons (反逆者、裏切り者、冷酷な者、不敬な輩)を despiter する(軽蔑する、挑戦する、負けない、立ち向かう、反する)という詞になっていてちょっと???と思うことになります。「反逆者」もしくは「裏切り者」が唐突に登場するので…。

で、 en vieux もしくは envieux は、その ces felon (「反逆者」「裏切り者」)に掛かるというので間違いないでしょうが、 en vieux と envieux どちらが意味的に正しそうか。

envieux は、現代英語で対応物を見付けるなら見たまま envious で、当時も同じ意味、すなわち「うらやましがる、妬み深い」となるようです。
だから ces felons envieux だとすると「嫉妬深い反逆者たち」というような意味になります。
これで、もちろん意味は通りますが、やはり「反逆者」が何なのか、何に反逆してるのかがわからないままです。(想像はできますが…。)

では en vieux ではどうか。英語にそのまま直すとしたら in old となります。これだとさらに???ですね。

でも、次のような意味だと思うとしっくりくる気がします。
フラ語の前置詞 en は英語の in と同様、意味が広いですが、ここでは状態を表すものと考えます。すなわち en vieux は「古い状態にある」です。

それで、改めてこの歌の内容を思い出しますと、これは「春の歌」です。冬は遠くに去って、新緑が生い茂り、生命が新生を向かえる新しい季節の歌です。過ごしやすい良い季節で日の光も明るい、だからみんなで浮かれて楽しくやろうよ、歌って踊ってさぁ、という歌です。

それでようやく ces felons en vieux の意味が見えてきます。つまり ces felons en vieux というのは、春になってみんな浮かれて楽しい気分になってるのにいつまでも冬みたいに暗い顔してるノリの悪い連中のことということになります。それが「反逆者」であるのは「五月の新鮮さ、明るさに反逆してるから」ですね。

以上のように理解すると私には非常にしっくりくるように思うのですがいかがでしょうか?

やっぱり折角写本のオリジナルを見ているなら、詞もしっかり見ないといけませんね。それと CD に付いてるような詞もその訳も、もとよりそれらはいい加減なものでは決してないでしょうが、そのまま鵜呑みにするというわけにもいかないようですね。

いやはや、古い音楽と付き合うのって大変です。

それから、この曲の詞について、もう一箇所明確に理解できてない箇所があります。後ろの方の

Car la saison semont tous amoureux
A ce faire, pourtant n'y fallons mie.

というところで、n'y fallons mie の意味がいまひとつ私にははっきりしません。みなさまの御意見求む、です。
posted by まうかめ堂 at 18:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 中世音楽
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