2006年06月04日

マショーのバラード 2声 vs 3声以上

今年の「重点領域」と年の初めに定めたマショーのバラード「チクルス」も、それなりに着々と量産できていて、2声曲は全曲 MIDI 化を終え、3声曲に突入しはじめました。
そこで、2声と3声では全く世界が違うのだという、非常に興味深い事実に気付きました。

それは「2声のようなフレキシビリティーが3声には無い」、「3声曲の構造は2声曲よりはるかに rigid である」、という口に出してしまうと当たり前に聞こえることなのですが、作ってみてそれを実際に体感できたというのはちょっと良い経験です。

これに関して二つのことを思いました。

第一には、中世音楽は単旋律のものと多声のものに大きく分けられますが、多声音楽もそれに匹敵するような差異として2声と3声以上に分けられるということです。

これは、単旋から2声への飛躍と2声から3声への飛躍がそれぞれかなりの期間を要したのに、3声から4声以上への敷衍は比較的短期間で行われたということと本質的に関わることと思われます。

またこれはノートルダム楽派におけるモーダル記譜法の導入とも微妙に関わってくることです。すなわちレオニヌスの時代までのような多分に即興的要素を含む2声の音楽においては必ずしもリズムをrigid に書き記さなくとも容易に「調和=協和」のための同期が得られたわけですが、3声以上で同期するとなると「時間 tempus」を何らかの意味で「計量する mensurare」必要が生じるわけです。

ただ、この辺の発展のモチベーションの核心がどこにあったのかは微妙かつ難しい問題ではないかと思います。つまり、3声以上に拡張するためにリズムの構造化が起こったのか、最初に2声において既にリズムの構造化が起こってそれが自然に3声に拡張されたのか、はたまたそれらが同時に起こったのか…。

面白いのは、完全に計量された音楽であるマショーの作品においても2声曲と3声曲の間にこれほど実感できるほどに差があったということです。

二番目には、トレチェントの曲で2声曲のウェイトが大きいのは、そのフレキシビリティーと直接関わっているようだということ。

確かにトレチェントの decorative な旋律重視の表現においては2声曲の方が圧倒的に作りやすそうです。
(カッチャは例外ですね。カッチャも旋律重視の音楽であることには変わりないと思いますが、これは系統が別ですね。)


マショーに話を戻しますが、3声の曲でもう一つ興味深く思ったのはコントラテノールの豊かさです。マショーの3声曲ではコントラテノールがいわば「狂言回し」になってるんじゃないかと…。

例えば、 Gais et joli ではAパート(二回くりかえす前半部分)で、三分の一ぐらいのところでコントラテノールに上声部のAパートのエンディング(二回目の方)の予示が既に出てくるんですね。しかも上声部のフレーズの切れ目にかぶせるような形で…。

本当に面白いですね、コントラテノール、和声やリズムの補完的声部にとどまるわけでなく、近代以降の音楽で言うところのオブリガートとも違う、マショーを始めとするこの時代のポリフォニーは本当に興味深いです。

また、これは、最近BBSの方でちらっと言った、コントラテノールにチェロ、Tテノールにハープシコード、というMUSICA ANTIQUAの Myoushin さんがよく使われている楽器法がしっくりくるということと関わっています。

チェロの音って大抵の音源でかなり分厚いウェイトのある音なのですが、これを敢えてコントラテノールに置き、上声部とがっつり対決させて、その分テノールを撥弦楽器にしてウェイトを軽くしておくと面白いぐらい良いバランスになるんですね。

マショーも、マショーの MIDI 化も興味が尽きないです。
posted by まうかめ堂 at 04:29| Comment(4) | TrackBack(0) | 中世音楽
この記事へのコメント
楽器法ですが、私の場合は音価が長いパートをチェロとかフィドルにして細かいパッセージの多いパートをハープシコードとかハープに振り分けています。
マショーは三声だとかなり性格が違ったパートを使った作曲をしていることが多いように感じています。
Posted by Myoushin at 2006年06月07日 16:09
「音価の長いパートに持続楽器、細かいパートに撥弦楽器」という楽器法は私もずっと一つの原則と思っていたやりかたなのですが、Myoushin さんの Honte, paour, doutbtance の MIDI ではそれが逆転されていて、さらにそこでコントラに使われているのが重みのあるチェロの音色だったので目から鱗が落ちた気がしました。

たしかにコントラのAパートに現れる美しい不協和な繋留を効果的に聞かせることなどに理にかなっていると思いました。
Posted by まうかめ堂 at 2006年06月07日 18:41
かなり以前のことなので自分が何故その組み合わせでMIDIファイルを作ったのかわすれました。多分同じ組み合わせには飽きて来ていたのでは・・・(^^
ムジカ・フィクタなど良くわからないながら、恐いもの知らずで作ったMIDIたちはマショーが聞いたら卒倒するかも(Myoushin作のことです)。
Posted by Myoushin at 2006年06月07日 22:36
きっと無意識的にも良く響く組み合わせに到達されたのでは…。
ムジカ・フィクタは本当に厄介ですね。
実は再び今日「ダヴィデのホケトゥス」のムジカ・フィクタを直して、密かに MIDI & mp3 を up し直したなんてことがありました(^^。
Posted by まうかめ堂 at 2006年06月08日 00:33
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